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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)402号 判決

被控訴人 和歌山相互

理由

一、控訴人飯塚に対する金五〇万円の貸付について。

(証拠)を総合すると、次の事実が認められる。

すなわち、控訴人飯塚は、知人たる訴外池上優の経営する電研工業株式会社の運転資金を得るため、昭和二八年七月被控訴銀行との間にいわゆる無尽給付なる相互掛金契約を結んだが、少なくとも三回掛金をしないとその給付を得られないため、早急に右資金を必要とする関係上、前記訴外人及び訴外岩田恭介の両名を通じて被控訴銀行天王寺支店の従業員川村義勇と交渉した結果、当時同銀行支店では、正規の預金又は貸付以外に、預金者に対し所定率を超える利息を支払つて預金を導入し、この金を所定率以上の利息を徴して貸付けるいわゆる裏勘定取引が行なわれていたので、この方法を以て前記無尽給付を受ける迄の間五〇万円程の資金の融通を受けることとなり、昭和二八年八月三日頃の午後七時ないし九時頃同支店二階に於て右川村から金三〇万円の交付をうけ、更に同月五日頃(この点は前掲証拠と弁論の全趣旨による)残二〇万円から後記認定の利息並に手数料を天引した金員の交付を受け、以上いずれも貸付けの権限ある右川村によつて、被控訴銀行の名を以て控訴人飯塚との間に消費貸借契約が締結された事実が認められる。(省略)

尤も証人大崎孝の原審及び当審に於ける各第二回証言によれば、右川村義勇は右貸付にあたり自己の為めにも不当な利益を得ようともくろんでいたかもしれぬことが推知できるが、それでもなお前掲証拠によれば、右川村が自己の企図を明らさまにしていたとは認められず、前示認定のように被控訴銀行所有の金を被控訴銀行の名で貸付けたと認定せざるを得ない。

次に右認定の天引額であるが、(証拠)を総合すると、控訴人主張のとおり五〇万円に対する一ケ月分利息として金三万円と、更に手数料名義で六〇〇〇円、合計三万六〇〇〇円が天引されたことが認められ、この認定をくつがえすに足る証拠はない。

控訴人らは、右貸付の態様及び高金利なることを以て、右貸付は公序良俗に反し無効であると主張するが、被控訴銀行が控訴人飯塚の窮迫無思慮に乗じたというような主張立証は何ら存しないし、又右程度の高利率にとどまる以上、前示認定の事実を以て、私法上右貸付が無効であるとするいわれはない。

又前示認定の貸付は、その成立日時、利率等に於て、被控訴人主張と若干の相違があるが、弁論の全趣旨に照らし、本事案に於ては、請求権の同一性には影響がないと考える。

そこで、当時の旧利息制限法を適用しその計算をすると、現実に交付された計四六万四〇〇〇円に対する一ケ月分利息は、年一割の限度で三八六六円(円未満切捨)が適法であり、天引額中右を超える三万二一三四円は元本(五〇万円)の弁済に充当されたものと解するのが相当である。

右消費貸借契約の元本返還期限について被控訴人は昭和二八年一〇月五日であると主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、却つて(証拠)によれば、前記相互掛金契約を締結した昭和二八年七月二〇日(この点は被控訴人主張を控訴人らが争わず又成立に争いのない乙第五号証の一ないし四によつても認められる。)から三ケ月、すなわち同年一〇月二〇日ということに一応定められたものと認められるから、同日の翌日から昭和三一年一一月二〇日(後記認定の日)までの利息相当年一割の割合による遅延損害金は一四万四二五八円(円未満切捨)となる。

二、控訴人飯塚に対する金八万円の貸付について。

(証拠)を総合すると、昭和二八年一二月二八日控訴人飯塚は、被控訴銀行から振出人五洋物産株式会社、金額八万円、支払期日昭和二九年二月二六日なる約束手形(甲第三号証)を交付して、利息日歩三銭五厘の約で金八万円の貸付をうけたことを認めるに充分であり、右認定に反する控訴人飯塚の原審における供述は信用し難く、その他右認定をくつがえすに足る証拠はない。

そうすると右手形の満期が弁済期と解せられるから、その翌日たる昭和二九年二月二七日から同三一年一一月二〇日(後記認定の日)迄の右元本の支払を遅滞した利息制限法所定の制限利率に引直した利息相当の年一割の割合による損害金は少くとも被控訴銀行主張額たる二万一七七七円に達する。

三、控訴人辻野、同新宮の連帯保証債務について。

(証拠)によれば、控訴人辻野同新宮は、昭和二八年一二月三日被控訴銀行に対し、控訴人飯塚が同銀行に対し現在及び将来負担する一切の債務につき、極度額五〇万円の範囲で連帯保証をした事実が認められ、これをくつがえすに足る証拠は存しない。

四、相殺について。

被控訴銀行が控訴人に対し、その主張にかかる金二五万円の掛金返戻債務を負担していたところ、昭和三三年四月一三日右債務と、控訴人飯塚に対する前示一、二記載の各遅延損害金債権とを対当額で相殺し、その余は一、記載の元本債権を以て対当額で相殺したことは、被控訴銀行の自陳するところであり、(証拠)によると、右被控訴銀行の控訴人飯塚に対する相互掛金契約の満期が昭和三一年一一月一九日で、翌三一年一一月二〇日には右契約に基く掛金返還債務の弁済期が到来したものであることを認めうべく、しかして、前記一、記載の貸金の弁済期が二、記載の貸金の弁済期より先に到来したものであること前認定の如くであるから右相殺による弁済の充当は適法なものというべきである。

五、結論

以上認定の結果、控訴人飯塚は被控訴銀行に対し、前示一の残元金三八万三九〇一円及び二、の元金八万円合計四六万三九〇一円及びこれに対する昭和三一年一一月二一日から支払ずみ迄年一割の遅延損害金を支払うべき義務があり、控訴人辻野、同新宮は五〇万円の限度で連帯保証の責に任ずべきであるが、前記認定のように契約を以て単に「極度額」と定めた場合は、これを以て債権極度額と解すべきであつて、元本極度額と解すべきでないから、結局金四六万三九〇一円とこれに対する昭和三一年一一月二一日から支払ずみに至る迄年一割の金員のうち金五〇万円に満つるまでの額すなわち金五〇万円を各自控訴人飯塚と連帯して支払うべきであり、したがつて被控訴銀行の請求は右の限度で正当であり認容すべきであるが、その余は失当であるからこれを葉却……。

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